信岡裕子さん BANNISTAR SINGAPORE Pte. Ltd CEO & ブランド戦略担当 Ver 3

見えない感覚でものを創るのは、日本のブランドだと思う。ロジックじゃなくて感覚値でものを作れるのは、世界の中でもユニークだし、大きな価値だと思う。
Q. 裕子さんの思う、ブランドとは?
教科書的に言うと、見える価値と見えない価値の総和が「ブランドです」と言います。
その価値がどれだけ唯一のもので、人にとって意味があるかでそのブランドの価値が変わる。でも、やればやるほど、その「価値を本質的に定義出来ているか」が勝負なんだと思いますね。
Q. その会社では、どんなブランドを手掛けていらしたのですか?
私は、日本にある外資系の会社がメインの担当で、P&G社が最大のクライアントでした。他にも、日本国内の会社のブランドも手掛けました。
入社した会社は、この業界の老舗で、また、同業の多くの会社がそうだったように、ロゴマークひとつで何億円ってビジネスなんだけど、それがどれだけそのクライアントのビジネスに実質貢献しているかって疑問に思っていて。
例えば、同じブランディグデザインでも、パッケージデザインって綺麗なものを作れば売れるものではなくて、それは商品そのもの。デザインをツールの一つと捉えて如何にマーケティングしてくか大事でしょう。ロゴでは、ビジネスビルディングが出来てない所に、大きな疑問を持っていました。
ただ、疑問を持ちながらも、日々お取引先との仕事は実践の場だったし、特にP&Gさんのプロジェクトは凄い早さで行われるでしょう。(笑)
Q. そう、早い会社(元社員)なんです。(笑)
P&Gは、とにかく早く戦略的に考えなきゃいけないって風土で、そのスピード感は鍛えられましたね。あそこで、凄い脳の筋トレをしましたね。
Q. 裕子さんは、単にブランド化ではなく、ビジネスを成功させるためのブランドとは?を考えてたということですね?
広告のように、ワンショット、ワンショットの瞬間風速の花火をあげてではなくて、連続性を非常に考える。子どもが成長していくようにブランドと並走を長くするってもの凄く大事で、外部の会社と一緒に試行錯誤繰り返すって作業は、企業には大事なことだと思います。
それから、企業の人たちは、エクセルで考える人たちが多く、クリエイターは、イラストレーターなどの表現で考える。そこにギャップが生まれてしまいがちなので、私がその言語の相互変換を担当するのは、もの凄く面白かったですね。そこで初めて、これまで自分が経験してきたこと全部が役立ちましたよ。
Q. JTBから始まって、デジタルの会社の経験も全て。その試行錯誤の実践が、やがて独立となったのですね。
あのね、独立は馬に乗っているとき、決心したの。
Q. えっ、馬?
お金もないし、こんな大きなことを本当にやるのかなって。それまでグズグズ考えていたの。やっと取れた年末の休暇で、直感で「北海道、乗馬」で検索して予約して。
極寒の北海道、マイナス10度。馬に乗るだけに行ったの(笑)馬には、ウソ付けないからね(笑)
Q. ハハハ。で、馬の背中で揺られながら決意したんですね。
そう!元同僚と、後もう一人の三人で、東京で独立したんですね。
Q. そのままP&Gも、継続されたのですか?
そのまま仕事を依頼してくださって、本当に驚きました。P&Gのような大きな会社が、スタートしたばかりの私達と契約してくれたのは、本当に感謝です。
他にもクライアントとして出会った人達が本当にすばらしい人達で……。丁丁発止やったし、戦友だと思える人にも出会いましたね。お互いに本当に真剣でした。真剣って、本当に切れるから真剣なんですよね。そのくらい真剣に、お付き合いさせて頂きましたね。
Q. 設立して1年で、今度はシンガポールにも会社設立。本当に凄いですよね。始めてみて、どんなことを感じたでしょうか?
シンガポール行きはね、六本木のトンネルをタクシーで通っている時に行こうって決めたの。(笑)アジアという軸で、何か新しいうねりを作るそうなるって思ったの。
スタートは、怖かった。生まれて初めての恐怖だった。
何のあてもなく、一人で来たから(笑)
Q. え?継続とかあって来たのではないのですね?何の確約もないのに、ひとりシンガポールで起業は、凄いです。
結果的には、P&Gさんともお仕事させて頂いていますが、なんの確約もなくて来ましたね。だから、自分の会社の唯一の強みってなんだってもうトコトン考え抜いた。
それと、会社を創る時のビジョンとして、大事にしようと決めていたのは「人を観ましょう」ってこと。
全ての解は、人にある。
だから人を徹底的に観ましょうと思った。
Q. なるほど。実際にいらしてここを観る。それでどの位から、なんとなく自分で回しているなって、思えるようになったのですか?
それは、今でも無いかな。(笑)
もう曲芸のようよ。自転車乗りながら、お手玉投げて、輪を回すような(笑)しかも、世界は凄い勢いで変わっているでしょう。だって、誰がここまでデジタルが席巻すると思った?もう古いモデルは通用しない。
Q. ブランドの世界でも?
ブランド創りの根本は変わらないんだけど、ブランドをAppreciate(認める)する人達の価値感が変わった。新しく考え直さなきゃならない時代になった。これは私だけが感じてるのではないと思う。
Q. そうですね。どの業界でも、流れが変わったというよりは、全く新しい所にいくドアをあけるようになると私も思いますね。
そう、全く新しい世界に行くドア
そういう意味では、私は不得意ではないかもね。これまでも、ゼロからやって来たので。(笑)
Q. アジアの時代が来ると思って丸8 年経ち、ここから日本をブランドして見た時に、「日本」をどんな風に発信していくと、いいなと感じますか?
見えない感覚でものを創るのは、日本のブランドだと思う。その感覚や感性値のメモリーがあまりに細かくて、そのままでは売れないものも多いんだけど。ロジックじゃなくて感覚値でものを作れるのは、世界の中でもユニークだし、大きな価値だと思う。
それがどうやったらお金になるのかってその時に大事なのが、買ってくれる人、相手を理解することなのですよね。本当に自分の良さを分かって貰おうとするならば、相手のパラメーターを分かりながら共通項を探して行く。日本はその共通項を探すという対応が弱いと思う。
だから、「人を観る」
これは、マーケティングでいえば、「あいうえお」の、「あ」なの。自分や自分の商品を語ることはもういいから、相手のことも知ろうよって人の事をもっと知っていきましょうって。差異を受容した上で共通点をもっと見つけましょうって。
Q. 共通点を探すのは、関係性を築くのに大事ですよね。もっと他の国を知ることは大事ですね。では、「シンガポール」をブランドとしてみると、どんな風に感じますか?
シンガポールは、正念場だと思う。
これはどの国でも同じだけど、ある程度お金を得られるようになると、今度はお金ではないものに価値が行くでしょう。この国で自然以外に、お金ではない価値は何がある?その間にインドネシアとか周りの国が大きくなっていって。
Q. そんな中で、ここで何を生み出すかですね?
凄く大きな問題だと思う。
何度かEDB (シンガポール経済開発庁)からご意見下さいと言われてお話したんですけど、みな、ここは多人種が文化だって言って話を終わらせるけど、本当の意味でここの文化を、どう作るかにかかってくる。
Q. そうですね、多文化が確立しているわけでもないですしね。
これを言うと周りによく笑われるんだけど、もっとニューヨークみたいになればいいなって思う。トランプ政権以降はまだどうなるかわからないけど、以前のニューヨークね。
色々な人種がやって来て、色々なことを挑戦出来て、新しいことがどんどん生まれていて、もの凄く競争社会でそういうもの凄いエネルギーが渦巻いている。ニューヨーク自体が、実験のプラットフォームになっている。
ブランドを作る者としての視点としては、シンガポールもそんなプラットフォーム化する。それが良いんじゃないかなって。ただ、それをするにはこの国は移民へのバーを上げ過ぎている。移民の多くが大金持ちか、超インテリか、それって成功者達だけなんだよね。
ニューヨークの面白いのは、陰の部分が一杯あって。これEBDの人達によく言うんだけど、光だけで出来上がったものは薄っぺらで面白くないよって言うの。
光と陰があるから、立体的に見える。だから、深みがあって面白いんだって。もっと、陰の部分も取り入れてあげてって言うの。
Q. なるほど、光と陰。深い例えですね〜。
私の周りにいる人達は、シンガポールの一般的な人の定義で言えば、成功の定義からはみ出た人達なんだけど、そういう人達の感覚は面白い。これまで見聞きした事が無い様な価値観を、持っていたりする。こういう人達が、次の価値を創るんだろうなって思う。
Q. これまでのお話を聴いていても、異端の中でも自分を表現していくこと。それを諦めないことなんだと思いました。裕子さん自身が話しながら、人生を振り返ってみて、自分の人生から問われている質問があるとすれば、それはどんなものですか?
「今のところ、大丈夫か?」(笑)それで「大丈夫」って、答えると思う。(笑)
満足しているか?って聴いて、イエ〜イ(腕を上げて)って程ではないけれどぼちぼちって感じで。なぜ、言えないかっていうと、また新しく始めようと思っているので。
Q. どんな新しいことをしようと思われているのですか?
人とビジネスを、国をまたいで繫いで行けるような試み。そこから新しい何かが生まれていく事ができるような。特にアジアと日本の間。
それは商品なり、何かを持っている人達のマインドに働きかけて行くことになると思うので、これは結構大きな試みになると思います。いままでのチャレンジとは、また変わると思います。また色々な人に助けられながら、やっていくんだろうなぁと思っています。
信岡裕子さんのご連絡先
ビーワールドワイド代表 (2018年1月より)
e-mail:yuko@be-wwd.com
インタビューを終えて☆
誰もが、これまでのやり方を変えるだけではなくて、全く異なるフェーズにいくように感じ、ひとり一人が、自分が何であるかを問われている様に感じています。
裕子さんの、「光と陰」のお話は、とても深い気づきでした。
自分を、ひとつのブランドとして観た時に、自分の中には、どんな光と陰のコントラストがあるのだろう?お話を終えて、そんなことを問い始めました。
陰と陽(YinYang)の様に、Yinの中の、Yang、そしてYangの中にある、Yin。そんな風にコントラストを発見していくのも楽しいですね。
人間だからこそ、自分だからこそ出来ること。
新しい価値観で、それを見てみる。
そして、やはり大事にしたいなと思うのは、ケニアの赤い夕日に感じる、そのこころ。もっと、もっと感じるこころ、その感覚を大事に自分の生き方で表現して行くことだなと思います。色々な意味でとても刺激的なお話で、沢山のヒントを頂きました。増々、裕子さんの新しい世界への挑戦が楽しみですね。
最後に質問です。
「今自分の中に、どんなコントラストがありますか?」