
それぞれのステージを受け入れながら、国際舞台で自分をどう成長させて行くか。さまざまな関係性から見えてきたこと、その在り方。インタポール(国際刑事警察機構)Interpol Global Complex for Innovation 総局長の中谷昇さんにお話をお伺いしました。
何か熱意をもって正しい方向に、一定の時間の努力をすれば、結果は絶対出ると思っています。本当に信じて傾ければ、僕は出来ると思っているんです。
Q. どうして警察庁に入ったのか、どの辺りからそれを思い描いていらしたのでしょうか?
バブルの頃だったんですよ、僕の大学時代は。
実は大学を卒業して、銀行に入ったんです。父が銀行員だったので、何も考えず銀行に入社しました。実際に銀行に入ってみると、いろいろあって研修、支店での仕事を経て、銀行の現実をみて、これは一生の仕事じゃないなって思ったんです。
11ヶ月で辞めました。
若い頃は、正義感が強かったので、「儲かるか、儲からないか」も重要だけど、「正しいか、正しくないか」ということに、自分の一生を捧げたいなって、それで仕事ができればいいなって思って、国家公務員。
当時、国家公務員なんて人気ないんですよ。
Q. バブルですからね(笑)
バブルですから(笑)
勿論、訊かれましたよね。「中谷くん、銀行辞めちゃっているんだよね、大丈夫?」って。今思えば、あの頃は若かったなと思いますけど(笑)
Q. 次を決めないで辞めちゃったんですか?正義感で?(笑)
そうですよ。しばらく無職でした。失業手当頂いていましたよ。
それで、その年に国家公務員の試験を受けました。試験の後、1次に、2次と面接を受けて行くのですけど「試験どうでしたか?」と人事に聴かれて、「多分、受かります」って言っていました。その人事の方が、すごい自信だなって覚えていたんです。
自分では覚えてはいないのですが、きっと若くてアドレナリンが出ていてそう言っていたんでしょうね(笑)
Q. 笑)なぜ、そのアドレナリンが出ていたと思いますか?
本気でやりたかったんでしょうね。
Q. 中谷さんのその正義感、その本気でやりたいという想いは、どこから来たと思いますか?
大学の卒業論文で、アフリカと日本との関係から「アパルトヘイトについて」を書いたのです。なぜ、人は生まれてきて、人種などの違いから差別されるのか?アフリカに居る弱い人が、自分たちのように夢を持って生きられるのか?
私達が当然と思うベーシックな生活がないのですよね。社会が不安定で、暴力が支配されている。治安がきちんとしてない。そんな中で、例え夢を持っても学校に行けない、病気になって死んじゃう。
自分たちは、恵まれているんだって思いましたね。
Q. 自分が恵まれていると、中々その事に気づけないと思うのですけど、興味は持ったきっかけは、なんだと思いますか?
政治って、最大多数の最大幸福数なんですよね。
みんなが幸福じゃなきゃ、その政治はアウトなんですよ。KPI (重要業績評価指標)としてはね。でも、漏れちゃう人いるんですよ。その人達はどうするのかね?って、そんな問いだったのでしょうね。
Overnight(一夜)で、物事解決できないけど、自分たちそれぞれが、何か小さい事でも出きるんじゃないか、そう考えたんだと思うのです。その延長で、自分の国を見たら銀行でお金を貸してもらえる人って、結局土地を持っていたいり、表舞台に出ないような人達だったり。
父が勤めていた頃の行動成長期の銀行は、お金がないけどビジョンがあって、世の中にためになるものを作っている人達に、その人達を信用して融資して、成功したら返してもらう。こういうビジネスモデルだったと思うのです。
お金がある人に、さらにお金を貸すのではなく、無い人に、困っている人に貸してその人達の夢を助けてあげる。そういう役目じゃないかって思っていたので、そのギャップがすごい訳ですよ。それで、さっき言った、なんで自信があったのかに戻るんですけど、でもね、結果もついて来きていたんですよ。
公務員試験も、一番で受かったんです。
何か熱意をもって正しい方向に、一定の時間の努力をすれば、結果は絶対出ると思っています。もし、結果がでないのであればそれは方法が間違っているかもしれない。あるいは、本当にやりたいと思っているのか、どこかに迷いがあるんじゃないか?
本当に信じて傾ければ、僕は出来ると思っているんです。
いろいろな意味でハンディキャップのある人達、恵まれていない人達に何かお役に立つこと。警察という観点、クリミナルジャスティスの観点から何か出来ないかなって思ったんですね。
で、警察に入ったんですよね。
Q. 警察庁に入ってみて、如何でしたか?
楽しいですよ。
ただ、ひとつ難しいなと思うのは、人権と、治安維持の為の手法、そのバランス。これはいつも考えますね。悪い人を捕まえるためには、色々な手段をやって捕まえたらいいんですね。でも、色々な手段をやるにあたっては、そのための副作用が出るかもしれないって思っています。
Q. シンガポールは、そのバランスが強くあるかなって思いますね。
警察権は、国によって違うんですよ。
インタポールには、190カ国のメンバーがいますが、それぞれに異なります。
シンガポールは小さい国家で歴史的成り立ちからしても、これだけ規制をしても、人々が豊かになって、豊かな生活を送れるならいいなって
大きな意味でのコンセンサス(合意)は取られてきて、いまもそれが続いているんでしょうね。
どこか不便であったとしても、みんなが豊かになったらいい。その為には政府の指示、方針には基本的には受け入れる。
Q. その縛りに対しては、すごい寛大ですよね。
それは政府が間違ってないからだと思いますよ。
この国全体が、企業のようなものですから。ボーナスや給料が、GDP(国内総生産)連動ですからね。これ、いいと思うんですよ。国全体がプラスなら、給料も民間並に上げる。下がっているだったら、下げる。
まともなシステムですよね。
Q. 不満があっても、自分たちの責任だって思えますよね。
政府の役人は、民間企業が儲けられる仕組み作りをしようと真剣に考えますよね。それが、この国の成長の継続性の原動力だと思います。
金銭的、生き甲斐、それがなんであれ、インセンティブ(動機付け)があると、人間って頑張ります。
Q. 頑張ります!
それで警察庁に入ると、最初の年に都道府県警察に行くんです。9ヶ月程でしたが、警察のユニフォームを着て、パトロールや取り調べもやったんです。
日本の警察は、批判もあるんですけど、全体としてすごくインテグリティー(誠実)職業的な意識がもの凄く高い。色々な国の警察を見て来ていますけど日本、シンガポール、そして香港は、ずば抜けて高いんです。
Q. インタポールというと、我々世代では、マンガ「ルパン三世」の銭形警部というのがイメージがあるんですが、世界全体を見ている国際警察なのでしょうか?
単純にいうと、国際警察協力なんですよ。
犯人が他の国にいるケースが多くなりました。あとは、サイバー犯罪ですと、犯人と、サーバーがある場所、被害者がいる場所が、それぞれ違う。マルチな警察の協力が必須になってくる、必要であれば、関係国間のコンタクト担当を我々がやりますと。
主に我々の役割は、警察機関向けインターネットサービスプロバイダー。後は、データーベース、クラウドサービスプロバイダー。メンバー国に対して、情報を提供します。そして、犯罪捜査のコーエディネーションをします。
あと、いまの多くの問題は、犯罪捜査能力の差が各国で大きいんですね。デジタルエビデンス(電子的証拠)が後進国にあると、きちんと保存されていなかったりする。それだと先進国の裁判では、証拠として採用されない。
いまは各国のケイパビリティビルディング(実践的スキルアップ)も行っています。またそのコンサルティングのようなことも行っています。必要であれば、ソルーション(解決策)を提供する。だから、犯人を追いかけることはしないんです。
Q. そうですよね。ルパンの三世のマンガが流行っていた頃はITもなくて、国際犯罪の内容も変わっていますよね。
基本的に、インタポールがやっていることは、コネクティングポリス(警察を繋げる)どれだけ効率的に効果的にネットワーキングをサポート出来るか、シンガポールは最高の立地ですよね。
Q. 少しお話を戻しますが、日本の警察庁にいらして、仕事の流れで海外にいらしたのだと思いますが、海外に行く際の壁などはありましたか?
国際機関で働こうと思っていたわけじゃなくて、大使館勤務を希望してたら、インタポール勤務の選考対象になった。本当に、たまたまなんですよ。
与えられた仕事を、自分が納得出来る様に仕事をすると、次のステップって連続性があるものですが、実は振り返るってみると、あの時のあれやったのが今に繋がっているんだなってことが、本当にあるんですよね。
Q. その時は見えてなくても、振り返ると全部繋がっているってことですね。
あのとき、頑張って良かったなと、ちょっと辛かったけど、繋がっていたんだって事があるんです。
おそらく、インタポールに来たきっかけは、警察庁でG8(主要国首脳会議)に参加したことです。なぜ、G8に参加したかというと、その前に警察庁から1年間、アメリカの大学へ留学したんです。それまで英語も、やってなかったんですよ。
Q. 警察庁で留学、それが海外に出るきっかけだったのですか?
アメリカの大学のジェイムス・アワー氏(米国国防総省国際安全保障局日本部長)のところで、「安全保障論」を学びました。それが海外に行った最初のきっかけです。
それで警察庁に戻って来て、幾つかある中にひとつのアサイメント(役割)が国際関係「G8」だったのです。留学していたということで、その役割を頂いたんでしょうね。
僕は大した英語力はなかったのですが、若かさもあってか「お友達力」があったんですよ。たった1年の留学で覚えた英語ですから、苦労はしたんですけど、G8では、ネットワークを作る力があったんです。
そうやっていく中で、警察庁が2004年にサイバー課を作ったんです。そこで、海外勤務希望者を集ったんですね。その中にはインタポールもあったんです。自分から手を挙げた訳ではないですが、G8に出席してましたので話が来た時には面白そうだな、と。
それで内部から、インタポールを受けてみろという話になって、経済ハイテク課(フランス)の課長として受かり、行ってみたら当時G8で出来たお友達が沢山いました。インタポールに行って、人生こう繋がっていたんだと思いましたよ。
でも、結構大変だったですよ。そもそもよく英語がわからないんですよ(笑)会議出席とは違う!(笑)
to be continued.
続きはこちらから
Ver 2:http://shitsumon-sg.com/star/star/5566/